経営は世界を善くできる。
——学部長インタビュー

経営学部長 廣瀬 文乃(旧姓 西原)

2025/06/23

教員

OVERVIEW

立教大学経営学部。ここでの4年間であなたは変身する。多様化し、複雑化する社会で、あなたは何を学ぶべきなのか。経営学で何ができるのか。経営の役割とその本質とは何か。経営の実践を追い続けてきた廣瀬学部長のインタビューから探る。

経営学は理論や分析だけでなく、「人間の営み」を研究する学問。

—— 高校生のみなさんにとって、進路選択というのは、すごく切実な問題です。

大きな分岐点のひとつですね。大学だけで人生のすべてが決まるわけではありませんが、人生の選択肢を広げる第一歩ですね。

—— 廣瀬先生ご自身は、どうして経営学を学ぼうと思ったんですか?

私は、大学は法学部法律学科で、経営は学びませんでした(笑)。卒業後は大手の電機メーカーに就職し、海外営業や企画、マーケティングなどに携わっていくなかで、仕事で経営の知識が必要なので自分で勉強しました。アメリカの現地法人によく出張したのですが、MBA(経営管理の修士号)を持っている人と仕事をすることが多くて。

—— 海外の企業では多いみたいですね。

なので、彼らと対等に渡り合うために「私もMBAを取るぞ!」と決意して、会社派遣で東京にある国立大学のビジネススクールに入り、そこで本格的に経営を学びました。

—— それなのに、どうして大学の教員に?

会社派遣だったのでMBAを取得したら会社に戻る約束でした。ですが、私が通っていたビジネススクールには、野中郁次郎先生と竹内弘高先生という世界的権威の先生がいたんです。お二人は「知識創造理論」という日本発の経営理論を提唱された方です。この理論がものすごく面白くて。この機会を逃すわけにはいかないと思って、いったんは会社に復帰したのですが、大学院に戻り、研究を続けることにしました。

—— 先生が夢中になった「知識創造理論」とは、どのような理論なのでしょう?

「ジャパン・アズ・ナンバーワン」と言われた1980年代の日本企業の製品開発の研究から生まれた理論です。当時の日本企業は、世界でも高く評価される新製品を次々と世に送り出していました。そのプロセスを観察し、開発者たちの話を聞いて、どうして日本企業は革新的なアイデアや商品を生み出すことができているのかを理論にしたんです。

—— それは、職人の匠の技みたいなもの?

そうですね。知識創造理論では、そういった言語化できない「暗黙知」と言語化可能な「形式知」が相互に変換されるスパイラルなプロセスがイノベーションを生み、日本企業の強みだと結論づけました。暗黙知は欧米の企業では軽視されがちですが、日本企業では今も大切にしているところが多いです。

—— 経営学というとデータや数値といった「形式知」を分析する学問という先入観があったのですが、それだけではないんですね。

それだけでは全然ないです。本当は、非常に「人間くさい」学問です。重要な点は、私たちの研究と教育の対象は「経営学」ではなく、「経営」そのものだということです。なので、経営理論を学ぶだけでは不十分で、やってみること、つまり実践が重要です。ゼミなどで体験学習などの実践の場を多く設けているのは、そのためです。

立教経営の学びの本質は、「善」の可能性を引き出すこと。

—— ここであえて、ちょっと意地悪な質問をさせてもらってもいいですか。

ええ、もちろん(笑)。どんな質問ですか?

—— 世の中には「経営なんてお金儲けの手段じゃないか」と考えている人もいると思うんです。たとえ誤解だったとしても、それが理由で経営学を敬遠している若者がいるとしたら、先生はどんな言葉をかけますか?

「お金」というのは、目的ではなく手段です。経営の目的は、人の役に立つものやサービスを創り出して新たな価値を提供することで、お金はその営みを維持するための手段に過ぎません。そこを勘違いして、お金儲けを目的にしてしまうと、人も世の中もおかしくなってしまう。この点は授業のなかでもはっきりと伝えています。私利私欲ではなく社会や世界のために価値を創る経営ができる人材を育てることは、私たちの使命だと思っています。

—— 立教経営の特徴かもしれませんね。

そうです。経営学部は2006年にそれまでの経済学部・経営学科と社会学部・産業関係学科を統合してできたのですが、その際に当時の先生方はかなり青臭い議論をしたそうです。

—— 青臭い議論、というと?

「ミッション系の大学で、なぜ経営を教えるんだ?」という問いを受けて議論し、本学の伝統に則して「経営とは愛を渡す行為なんだ」と結論づけた。つまりビジネスを通じて人や社会の役に立つ価値を創り出すことができる人材を育成することが、自分たちの存在意義なのだという結論になったのです。

—— 立教大学のキリスト教的な価値観が、経営学部の根っこにあるのは、少し意外でした。

本学の建学の精神は「PRO DEO ET PATRIA」といって、直訳すると「神と国のために」という意味のラテン語です。私たちはこの言葉を「普遍的なる真理を探求し、私たちの世界、社会、隣人のために」と解釈しています。

—— 経営学部の「プレッジ(誓い)」にも通ずるものがありそうですね。

そうですね。プレッジは、2006年の経営学部の創立以来の伝統があり、入学時のウェルカムキャンプで説明しています。将来のリーダーとして、自分の能力を使い、真摯に学び、豊かで持続可能な世界の実現を誓うものです。ポスターに署名をし、学部長と握手をしてプレッジカードを受け取ります。この誓いは経営学部生として生涯守っていくものになっています(笑)。これが経営学部の「善き経営」の基盤のひとつになっています。

—— そんな伝統が!「善き」とは、具体的にはどういうことなのか気になりますね。

これは個人的な意見ですが、私はそもそも人間の本質は「善」だと思っているんです。いわゆる性善説ですね。でも、普段は表に出してはいない。「善」は暗黙知に似ていて、意識的に言語化しないからです。でも、たしかに私たちのなかには存在している。この「善」を、いかに引き出し、社会に向けて開いていくのか。それを考え、行えるようにするのが「善き経営」だと考えています。

—— たしかにそれは「お金儲け」を目的とする経営とは、まったく違うものですよね。

違いますね。でも、お金は大事ですよ。お金を血液にたとえることが多いように。なので、授業ではファイナンスや会計についても、しっかりと学んでもらいます。

—— 先ほど「将来のリーダー」と言われてましたが、廣瀬先生はリーダーやリーダーシップをどのように考えていますか?

リーダーの最もシンプルな定義は、「目的や目標を達成するために、他人に影響を与えられる人」になります。重要なのは、人はフォロワーに認められることで、リーダーになれるという点です。フォロワーも自分のフォロワーに認められることで、リーダーになれる。このように、リーダーシップは連鎖していくものだと考えています。立教経営では自分らしいリーダーシップ・スタイルを身につけられる仕組みを提供しています。
立教大学経営学部と経営学研究科は2024年にビジネススクールの国際認証機関であるAACSBから認証を取得しましたが、リーダーシップ教育の質を高く評価していただきました。

挑戦と失敗の積み重ねが、「善き経営」の糧となる。

—— ここまでお話を伺うなかで、経営学という学問の射程の広さが、少しわかった気がします。単に「会社経営」の理論や分析の仕方について勉強するだけではないんですね。

そもそも私たちの生活は 、経営抜きには成り立たないものです。衣食住といった生活の糧を得るのも経営があってこそです。私たちが自分らしく幸せに生きるには、なんらかの仕事をして、他者から認められる価値を提供することが必要不可欠です。もっとマクロな視点では、より平和な世界をつくる上でも、経営の果たすべき役割は大きいと感じています。

—— 世界平和に、経営が寄与できますか?

人と人、企業と企業、そして国と国とがともに働き、持ちつ持たれつの関係になることで、世界は平和になっていくという考え方があります。残念ながら、それに反する厳しい現実もありますが、理想はそうあるべきです。

—— すごく励まされる言葉です!ただ、先生も仰ったように、厳しい現実もあって、未来のことを考えると不安になってしまうという人も、きっといると思うんです。特に日本の未来については、暗い予測を語る人も多いですよね。

少し前までは「失われた30年」という言葉をよく耳にしましたが、私自身は、状況は好転しつつあると感じています。若い人たちを中心に、新たな価値観や技術などが創造されていますし、それが世界にも認められつつある。それほど悲観する必要はないと思います。

—— そう聞いて、ちょっと安心しました。

悲観的な予測をする人は「GDPの成長率が云々」のように、物事を数値だけで見がちだと思うんです。たしかにそれも重要ですが、でも数値目標が一人歩きすると、見えなくなってしまうものもある。たとえば、ウェルビーイング。どれだけ実現されているかは、数字ではなかなか表せませんよね。

—— まさに暗黙知ですね。

そうなんです。これからの時代では、暗黙知がますます重要になっていくと感じています。昨今の生成AI は形式知の扱いが非常に長けている。だからこそ人間にはより一層の人間らしさ、つまり暗黙知の質と量を増やすことが大切になる。一方で、生成AI を活用すると、私たちはより上手に「暗黙知と形式知の相互変換」ができるのではないかと思います。

—— 経営学の重要性も、さらに高まりそうですね。これから経営学を学ぼうという人に向けて、なにか メッセージはありますか?

いちばんお伝えしたいのは、みなさんには無限の可能性がある、ということです。それを花開かせるためには、自分が「面白い」「楽しい」と感じることをきっかけにするのがなによりも大切だと思います。だから、もしも経営学を「面白い」と感じるのであれば、ぜひ本学で一緒に学んでいけたら嬉しいですね。
—— 最初に進路選択のお話をしましたが、道はいろいろありますもんね。

本当にそう思います。あとは、若い人には失敗を恐れないでほしいですね。失敗からしか学べないことはたくさんあります。大学生のうちであれば、たいていの失敗は取り戻せます。だから、大学で過ごす間に、たくさんのチャレンジをして変身していってほしい。私の恩師の言葉を借りるなら「経営は生き方の実践そのもの」です。あなたの生き方があなたの経営の考え方や実践に反映されます。挑戦も失敗も、必ずあなたの糧になります。人生に無駄なことはひとつもありません。すべての経験が自分らしいリーダーシップを身につけること、善き経営を実践することに、そして善く生きることに、必ずつながっていくと信じています。

プロフィール

PROFILE

経営学部長 廣瀬 文乃(旧姓 西原)

名古屋大学法学部法律学科卒業後、日本電気(NEC)に入社し、海外PC事業の事業企画や販売促進に従事。一橋大学大学院国際企業戦略研究科に進学し、野中郁次郎一橋大学名誉教授に師事。2016年に立教大学経営学部に移籍、2019年に准教授に就任し、2024年より経営学部長および経営学研究科委員長を務める。主な著書は『実践ソーシャル・イノベーション』『イノベーションを起こす組織』など。

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